第5回

知りたい気持ち、伝えたい気持ち

建築士には、コミュニケーション能力がとても重要だとよくいわれます。
建物を建てる際には、必ずプランを説明しないといけません。以前、職場の上司から「七人の敵に説明して承認してもらってやっと建物は建てられる」と教わりました。
一人目は土地の地主、二人目は役所、三人目は施主、四人目は近隣、五人目は施工者、六人目はメディア、七人目は世間とのことでした。
当時私の担当していたプロジェクトで近隣の方にお願いして承認してもらわないと着工できないことがあり、毎日のように通って説明したことがありました。
改めてコミュニケーションの難しさを感じました。

日本語で伝えることができないのに、英語で気持ちが伝わるはずがないのではないかと考える方もいるでしょう。
はじめて海外に行ったのは高校生の頃でした。学校の姉妹校がニューヨーク州にあり、ホームステイをしながら1か月アメリカの高校生に混じって通学しました。
勿論はじめからうまく話せるわけにはいかず、無口な子だねと言われていました。
実際私は無口ではなく、同じ日本の高校生に会った瞬間弾けるかのごとく話す私をみて、ホストファミリーは驚き、そしてこう言ってくれました。

「自信を持って、わかる単語だけでもいいから、どんどん話しなさい。文法も間違っていいし、発音も接続詞も間違っていい。理解してあげるからとにかく話しなさい。」

初めは不安ばかりでしたが、じっと聞いてくれるホストファミリーのおかげで、どんどん話せるようになりました。そして気が付くと夢の中でも英語で話している自分を発見してドキドキしたのを覚えています。

その後大学生になった私は、工学部に所属し英語とは全く縁のない生活を送っていましたが英語って楽しいなと思い続けていました。
社会人に入って初めての仕事は、横須賀基地内のプロジェクトでした。
入社面接のときに「英語は好きですか?」との質問に「大好きです。」と答えてしまったばかりに、海外事業部に所属となってしまったのです。
会議はすべて英語で録音はしているものの、たった数時間の議事録作成にさえも苦労しました。それから日本語と英語両方の設計図書を作成するのですが、建築英語辞典を片手に英語漬けの毎日を送っていました。
しかし調べれば調べるほど分かる楽しみが増え、今度話したいことを頭の中で作文していく作業を自然とできるようになりました。

ある設計事務所でインターンをしていたとき、チーム別に提案をする機会がありました。
その事務所は半分が外国人で、私のチームは、スペインとフランス人と日本という3か国にまたがる構成でした。
しかも、私以外の彼らはスペイン語で会話しています。その時は日本人だけのチームがとてもうらやましく、話し合いをしながら淡々と作業をしているのを横目に、私は一体このチームで何をすればいいのか悩みました。
このままではいけないと思い、知っている英語を投げかけ半ば強制的に会話に参加しました。説明が難しかったり、理解が足りなかったりした部分は、ひたすら絵や単語を書き並べました。そのうち他のメンバーも私の描いた図のそばにどんどん絵や文字を加えていき、結果独創的で楽しい発表になりました。

昨年、JICA研修で来沖していたサモア、中国、ベトナムの研究員の方々と過ごした3日間もとても貴重な時間でした。
全員母国語が英語ではないので、独特の発音やアクセントはありますが、お互いを知ろうという気持ちがあり、話題をだすととことん話すことができました。
各国の設計料は、建設費の何%くらいなのか聞くと、サモアの方は50%だといい、ベトナムの方は1%程度だといいます。
台風の対策はどうやっているのか聞くと、サモアの方は、屋根はとんだらまた取りに行けば良いといいます。これには、そこにいた全員で笑う場面もありました。
共通の話題や同じ事を笑いあえると距離が縮まっていくのを感じました。

コミュニケーションのコツは、なるべく単純にかっこつけない事だと思います。
そして表情やリアクションを大切にすることだと思います。
私が初対面で話しかけるときは、まず相手をよく見て長所をみつける事から始めます。
そうすると違う会話にも発展しやすい気がします。
そして話を聞く事と話す事の割合を5:5程度にすることもポイントです。

アジアの蒸暑地域には、世界人口の1/3の人々が暮らしています。
今後、沖縄から発信するだけでなく受信するのも同じくらい大切だと思います。相手を知りたいという気持ち伝えたい気持ちが合致して何かを変えるきっかけになるかもしれません。

(2013年10月16日掲載)